認知症のもの盗られ妄想とは?家族が限界になる前の4つの対応策
「財布を盗んだでしょう」「通帳がない、あなたが隠したんでしょう」——毎日のように疑われ、弁明しても信じてもらえない。これほど心が折れる介護の場面はないかもしれません。
しかも疑ってくるのは、自分が一番大切にしている家族。その矛盾が、介護者の心を深くえぐります。
私は回復期リハビリテーション病棟で7年以上働いてきた看護師です。「もの盗られ妄想」で疲弊しきった家族を何人も見てきました。そして、正しい対応を知るだけで、症状は必ず落ち着かせることができます。
「もの盗られ妄想」とは何か?認知症のBPSDとして理解する
もの盗られ妄想とは、自分の大切なものを誰かに盗まれたと繰り返し確信してしまう症状で、認知症のBPSD(行動・心理症状)の一つです。
なぜ起きるのかというと、記憶障害によって「自分でしまった」という記憶が消えてしまうため、「誰かに取られた」という結論に脳が自動的に達してしまうからです。悪意でも嘘でもなく、本人にとっては「本当のこと」として感じられています。
もの盗られ妄想を含むBPSD全体の理解はこちらをご覧ください。

もの盗られ妄想のNGワード:言ってしまいがちな3つの言葉
まず、やってしまいがちだけれど逆効果になる言葉を知っておきましょう。
- NGワード①「盗んでいません!」:否定は本人の確信をさらに強め、不信感を深めます
- NGワード②「さっき自分でしまったでしょう」:記憶がない方への指摘は混乱と怒りを招くだけです
- NGワード③「また同じことを言って」:本人にとっては「初めて言っていること」です。呆れる素振りは傷つけます
これらを言ってしまった経験があっても、責める必要はありません。知らなかっただけです。今日から変えていきましょう。
対応策①:「一緒に探しましょう」と共犯者になる
もの盗られ妄想への最も有効な第一声は、「一緒に探しましょう」です。
具体的な会話例:
- ×「盗んでいません」→ ○「それは大変!一緒に探しましょう」
- ×「自分でしまったんじゃないの」→ ○「どこかに落としたかもしれないですね、見てみましょう」
「一緒に探す」という行動は、本人に「この人は味方だ」という安心感を与えます。見つかっても見つからなくても、探す行為自体が興奮を落ち着かせる効果があります。
対応策②:「いつもの場所」に戻してあげる仕組みを作る
財布や通帳など、よく「盗まれた」と言われるものは、本人が「いつもここに置く」と決めた場所を一つ作ることで、妄想の頻度を減らせます。
ポイントは「本人が決める」こと。家族が決めた場所では意味がありません。「大切なものはここに置こうね」と本人と一緒に決め、習慣化することで「なくなった」という混乱が起きにくくなります。
対応策③:疑いの矛先が自分に向いたら「第三者のせいにする」
「あなたが盗んだ」と直接言われる場合、その場で否定しても逆効果です。こういうときは、第三者(架空の人物)に矛先をずらす方法が有効です。
具体的な会話例:
- 「もしかしたら、この間来た△△さんが間違えて持って行ったかもしれないですね」
- 「郵便屋さんが何か持っていったのかな、ちょっと確認してみましょうか」
これは「嘘をつく」ことへの抵抗感がある方もいますが、本人の混乱と苦しみを和らげるための対応として、現場では広く推奨されています。
対応策④:症状が激しい場合は主治医・ケアマネに相談する
もの盗られ妄想が毎日続き、家族が疲弊している場合は、薬による治療が有効なこともあります。「薬に頼ることへの罪悪感」を感じる方も多いですが、適切な薬の使用は本人の苦しみを和らげるためのものです。
主治医に「最近こういう症状が毎日続いています」と具体的に伝えることが、治療の入口になります。BPSDの薬物治療の考え方についてはこちらをご覧ください。

もの盗られ妄想で限界を感じたら:介護者自身の心を守ろう
毎日疑われ続けることは、介護者の心に深刻なダメージを与えます。「もう限界」と感じたときに使える逃げ道と、ストレスケアの方法はこちらをご覧ください。

まとめ:もの盗られ妄想は「疑っているのではなく、怖いのです」
4つの対応策をまとめます。
- ① 「一緒に探しましょう」と共犯者になる
- ② 「いつもの場所」に戻してあげる仕組みを作る
- ③ 疑いの矛先が自分に向いたら第三者のせいにする
- ④ 症状が激しい場合は主治医・ケアマネに相談する
もの盗られ妄想は、「あなたを疑っている」のではありません。記憶が消えていく恐怖の中で、「何かにしがみつこうとしている」脳のSOSです。
毎日疑われながらも向き合い続けているあなたは、本当によく頑張っています。
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あなたのケアの一歩が、明日の安心につながりますように。








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