「黒い便って、救急車を呼ぶほどのことなんでしょうか?」
これは、介護の現場でたびたび耳にする問いです。ある日、「鉄剤の影響だと思っていたけれど、なんだか顔色が悪くて」と不安そうに来られたご家族がいました。
実際、その方は胃潰瘍による消化管出血。迅速に救急車を手配したことで、大事には至りませんでした。
でも、もし誰にも相談できずに一人で判断を迫られていたら——きっと悩んでしまうはずです。
この記事では、現場の看護師としての経験をもとに、**「救急車を呼ぶべきか迷ったときに確認したい6つの視点」**をお伝えします。読んだあとに、少しでも安心して行動できるようになっていただけたら嬉しいです。
黒い便の原因を見極める
黒い便=出血?鉄剤?それとも食べ物?
見分け方は一見むずかしそうですが、いくつかの視点を持つだけで判断の精度は大きく上がります。
消化管からの出血のサイン
黒くてベタつき、独特なにおいのある便は、「タール便」とも呼ばれます。これは、**上部消化管出血(胃や十二指腸からの出血)**が疑われるサインです。
NSAIDs(消炎鎮痛薬)の長期使用や潰瘍、肝疾患のある人は特に注意が必要です。高齢者は出血していても痛みを訴えないこともあります。見た目だけでは判断がつかない場合もあるため、慎重に観察を。
鉄剤による変化との違い
鉄剤の服用中に黒い便が出ることはよくあります。ただし、便の形がしっかりしていて、においも強くない場合が多く、タール状ではありません。
鉄剤のせいと思い込んで、実は出血だったというケースもあります。突然の変化や体調不良を感じたら、「いつもと違う」と考えておくのが安心です。
食べ物による色の変化もある
黒ごまやブルーベリーなどの濃い色の食品でも、便が黒くなることがあります。ただし、体調に変化がない、便の質が水っぽくない、1日程度で色が戻るようであれば、心配のないことが多いです。
救急車を呼ぶべきサインとは?
「これは様子見でいい?それとも今すぐ動くべき?」
そんな迷いを抱えたとき、次の項目に当てはまるかをチェックしてみてください。
他の症状を伴っているとき
黒い便に加えて、めまい、吐き気、顔色の悪さ、血圧の低下、脈の速さなどがある場合、出血による貧血が進行している可能性があります。
私の患者さんでも、朝は普通に会話していたのに、午後には意識が朦朧とし、立てなくなってしまった方がいました。「なんとなく違和感がある」という直感は、大切にしてください。
意識がぼんやりしているとき
反応が遅い、会話が不自然、急に眠ってしまう。そんな様子があるときは、脳への酸素供給が不足している可能性もあります。
救急車の判断に迷ったら、「意識が保てているかどうか」がひとつの大きな指標になります。
持病や出血リスクのある薬を使っている場合
胃潰瘍や肝疾患の既往歴がある方、血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を飲んでいる方は、少しの出血でも命に関わることがあります。
そうした背景がある場合は、黒い便が出た時点で慎重に動くことをおすすめします。
様子を見てもよいときの目安
もちろん、すべての黒い便が緊急事案とは限りません。以下に当てはまるときは、まずは落ち着いて観察することも選択肢のひとつです。
鉄剤を服用していて他に異常がない
以前から黒っぽい便が続いており、体調やバイタルサイン(血圧・体温・意識など)が安定している場合は、経過観察しながら情報を記録しておくのがおすすめです。
記録しておけば、後で相談する際に医療者に正確に伝えることができます。
食事や行動に変化がない
食事をしっかり摂れ、水分もとれていて、会話もスムーズ。そんなときは、少し様子を見る余裕があるかもしれません。
ただし、「大丈夫かも」と思っても、気になる違和感があれば遠慮なく相談してください。
かかりつけ医や訪問看護がすぐに相談できる
医療者との連絡が取りやすい環境であれば、まずは電話で状況を伝えてみてください。
「いつから」「何回出たか」「どんな色・においだったか」「食事内容」などを整理しておくと、判断がしやすくなります。
救急車を呼ぶときに伝えたいこと
いざというとき、正確な情報を救急隊に伝えることで、搬送後の対応がぐっとスムーズになります。
次の4点を、メモやスマホで整理しておきましょう。
- 便の状態(色・粘り・におい・回数・出始めた時間)
- 服用中の薬・持病(鉄剤、抗血栓薬、NSAIDsなど)
- 体調の変化(めまい、息苦しさ、意識の低下など)
- 緊急連絡先・診察券・お薬手帳など
「いざ」というときに慌てないためにも、あらかじめ情報を1枚の紙にまとめておくのもおすすめです。
看護師からのメッセージ
私はこれまで、救急搬送の判断に迷い、後悔したご家族と何人も接してきました。
一方で、**「呼びすぎたかなと思ったけれど、やっぱり呼んでよかった」**という声は、安心と納得につながっていました。
後悔よりも、安全を選ぶ判断を、どうか自分に許してあげてください。
黒い便を見たときのセルフチェックリスト
以下の項目をもとに、「今すぐ動くべきか」「まず観察でよいか」の判断材料にしてください。
- □ タール状の便で、においが強い
- □ めまいや嘔吐などの症状がある
- □ 意識がぼんやりしている、反応が鈍い
- □ 血液サラサラの薬を服用している
- □ 胃や腸の持病がある
- □ すぐに相談できる医療者がいない
2つ以上当てはまったら、ためらわず救急車の手配を考えましょう。
おわりに
黒い便は、見た目以上に判断がむずかしいサインです。でも、「あのとき迷っていたけれど、この記事を読んで行動できた」と思ってもらえるような一助になれたら、看護師として本望です。
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不安になったら、一人で抱え込まず、この記事を開いて確認しましょう。
あなたのケアの一歩が、明日の安心につながりますように。