「手順は聞いたけれど、もし失敗したら…」
そう不安そうに話してくれたご家族がいました。気管切開後の在宅ケアで、気管吸引を任された方でした。
私自身も看護師になりたての頃は、気管吸引は緊張する処置でした。でも、だからこそ「自宅でひとりでやること」のプレッシャーは想像以上のものです。
この記事では、在宅で気管吸引を行う際に押さえておきたい7つの原則を、看護師の視点から、やさしく・現実的にお伝えします。必要以上に怖がらず、でも軽視せず、安心してケアに向き合えるよう一緒に整理していきましょう。
気管吸引とは?医療行為としての位置づけ
気管吸引の基本と目的
気管吸引は、気管切開された患者さんの気道にたまった痰や分泌物を除去するための処置です。口や鼻からの吸引と異なり、直接気管へアプローチするため、より高度な注意と準備が求められます。
なぜ「医療行為」とされるのか
この処置は、直接呼吸機能に関わるため、多くの国や地域では医療行為として位置づけられています。医師の指示と、看護師の指導を受けて初めて「実施してよい」とされる行為です。
自宅で吸引が必要になるケース
訪問看護が間に合わない、夜間にも吸引が必要、といった場面では、家族が対応せざるを得ないこともあります。その際は、事前に役割と範囲を明確にしておくことが安心材料になります。
安全に吸引を行うための実践準備
必要物品の確認と吸引圧の調整
吸引器、カテーテル、手袋、マスク、滅菌水などを揃え、吸引圧は20〜25kPa程度が一般的です。吸引前にテスト吸引を行うことで、トラブルを未然に防げます。
姿勢とタイミングの見極め
患者さんは**セミファウラー位(30〜45度の上体挙上)**が推奨されます。吸引のタイミングは決め打ちではなく、「ゴロゴロ音」「咳の増加」などの変化をもとに判断しましょう。
挿入の深さと吸引時間の目安
- カテーテルはチューブ長+1〜2cm程度まで
- 吸引時間は1回10〜15秒以内
- 吸引の合間にしっかりと呼吸の休憩を取ることが大切です。
「長く吸うより、こまめに・浅く」が基本です。
吸引中の観察とリスク対応
観察すべき変化とは?
吸引中は、痰の量だけでなく、顔色・呼吸・SpO₂・表情なども観察します。
- 酸素飽和度が90%以下
- 顔が青白くなる
- 咳き込みが強く、止まらない
このような変化が見られた場合は、すぐに中止し、落ち着いたら医療機関に相談しましょう。
「やってはいけない」と判断すべき場面
- 出血や強い抵抗がある
- 患者さんが拒否・パニックになる
- 吸引の許可や指導がない状態で実施しようとしている
こういった場合は、無理をせず「やらない」ことがベストの判断です。
感染予防もケアのうち
吸引は、感染リスクが非常に高い処置です。在宅でも気を抜かず、以下の対策を徹底しましょう。
- 手袋・マスクの着用
- カテーテルは基本使い捨て。再利用の場合は完全洗浄・乾燥・密閉
- 使用後は速やかに廃棄し、手洗いと器具消毒を
「清潔に保つこと=命を守ること」と心得ましょう。
「怖い」「不安」…そんなときは
「本当に私がやっていいの?」
この疑問は、ほとんどの介護者が一度は抱きます。
不安なときは、医師の指示書を再確認し、訪問看護師に相談することをおすすめします。
「もし間違えたらどうしよう」
その不安は、とても自然な感情です。
記録をつけて、自分の手技を可視化するだけでも、冷静な振り返りができるようになります。
「怖いけれど、助けたい」
その気持ちがあるからこそ、この記事を読んでくださっているのだと思います。
可能であれば、もう一人、そばにいる人を頼る体制をつくっておくと安心です。
まとめ|在宅吸引に必要なのは「線引き」と「迷わない仕組み」
気管吸引は、命にかかわる処置です。
それでも、「自分でできる範囲」と「任せるべき範囲」を線引きしておくことで、安全に、そして安心してケアを続けることができます。
✅ チェックリスト
- 医師の指示と看護師の指導を受けている
- 準備物の確認ができている
- 吸引の判断が「必要性」に基づいている
- 深さ・時間・観察の基準を把握している
- 感染予防を意識している
- 記録をつけ、振り返る習慣がある
- 迷ったとき、相談できる相手がいる
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あなたのケアの一歩が、明日の安心につながりますように。