認知症の記憶障害・同じことを繰り返す親への6つの対応【看護師解説】
「さっき言ったでしょう」「また同じ話……」——気づけばそう思ってしまっている自分に、罪悪感を感じていませんか?
何度聞いても同じことを聞いてくる、さっき食べたのにまた「ご飯はまだ?」と言う、同じ話を一日に何十回も繰り返す。それがずっと続くと、どんなに愛情深い家族でも限界が来ます。
でも、これは「わざとやっている」のでも「嫌がらせ」でもありません。短期記憶障害という、脳の症状です。
私は回復期リハビリテーション病棟で7年以上働いてきた看護師です。この記事では、同じことを繰り返す背景にある記憶障害の仕組みと、今日から使える6つの対応をお伝えします。
「何度も同じことを言う」のはなぜ?短期記憶障害の仕組みを知る
人の記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。
- 短期記憶:数秒〜数分前の出来事を保持する記憶。認知症では最初に障害されやすい。
- 長期記憶:数年〜数十年前の出来事や感情の記憶。認知症になっても比較的保たれやすい。
認知症の方が「さっき聞いたこと」を覚えていないのは、短期記憶に情報が保存される前に消えてしまうからです。本人にとっては「初めて聞くこと」「初めて言うこと」として感じられています。
つまり「何度も同じことを言う」のは、意図的でも嫌がらせでもなく、脳の構造上「そうなってしまう」のです。
やってはいけないNG対応:つい言ってしまう3つの言葉
まず、逆効果になりやすい対応を知っておきましょう。
- NGワード①「さっき言ったでしょう」:本人には記憶がないため、否定されたと感じ混乱・傷つきます
- NGワード②「また同じ話……」:呆れた素振りは本人のプライドを深く傷つけます
- NGワード③「何回言えばわかるの」:何回言われても記憶できない脳の状態への責めは、不安と混乱を増幅させます
言ってしまった経験がある方も、責める必要はありません。知らなかっただけです。今日から変えていきましょう。
対応①:毎回「初めて聞く顔」で答える
最も基本的で、最も効果的な対応です。何度目であっても、「初めて聞いた顔」で、同じ温度感で答える。
これは言うは易く行うは難しですが、「本人にとっては本当に初めてのこと」と意識するだけで、対応の質が変わります。感情的にならずに答えられた自分を、小さく褒めてあげてください。
対応②:答えを「見える化」して繰り返しを減らす
「今日は何曜日?」「ご飯はまだ?」「○○はいつ来る?」など、よく繰り返す質問がある場合は、答えを紙に書いて見える場所に貼っておく方法が有効です。
例:「今日は火曜日です」「次のご飯は12時です」「○○は土曜日に来ます」——大きな字で、本人がよく見る場所(冷蔵庫・トイレのドアなど)に貼ります。質問の頻度が減り、介護者の負担が軽くなります。
対応③:感情に寄り添う言葉で「不安の根っこ」に応える
同じことを繰り返す背景には、多くの場合「不安・心配・確認したい気持ち」があります。「ご飯はまだ?」は空腹より「自分は忘れられていないか」という不安の表れであることも多いです。
答えを伝えるだけでなく、「大丈夫ですよ、ちゃんといますよ」という安心の言葉を添えることで、繰り返しの頻度が下がることがあります。情報より感情に応えることが、記憶障害への対応の核心です。
対応④:繰り返しを「会話の練習」と捉え直す
これは認知症ケアの専門家がよく伝えることですが、同じ話を繰り返すことは、本人にとって「大切な記憶・誇り・感情」を共有したい行為でもあります。
昔の武勇伝、子育ての話、好きだった仕事の話——同じ話であっても「そうなんですね、それはすごい」と受け取ることで、本人の自尊心が満たされ、精神的な安定につながります。「また同じ話」ではなく「この話がこの人の宝物なんだ」と捉え直すと、気持ちが少し楽になります。
対応⑤:繰り返しが激しい時間帯に「別の活動」を先手で入れる
繰り返しが特に多い時間帯があるなら、その時間に本人が好きな活動を先手で組み込むことが有効です。好きな音楽を流す、一緒に簡単な作業をする、散歩に出るなど。「何かに集中している状態」は、繰り返しの衝動を和らげます。
対応⑥:自分の感情が限界になったら「その場を離れる」を許可する
何十回も同じ質問に答え続けていると、どんなに理解していても感情が追いつかなくなります。そのときは、「ちょっとお茶を入れてきますね」と言ってその場を離れることを自分に許可してください。
逃げることは正しい対応です。あなたが冷静でいられる状態を保つことが、本人への最善のケアにつながります。
記憶障害が入院をきっかけに急に進んだ場合は要注意
入院をきっかけに記憶障害が急激に悪化した場合、せん妄(入院・環境変化による一時的な混乱状態)が関係していることがあります。せん妄と認知症の悪化の違いについてはこちらをご覧ください。

記憶障害への対応で疲れたら:介護者自身の心のケアを
繰り返しへの対応は、じわじわと介護者の心を消耗させます。「もう限界かもしれない」と感じたときに使える逃げ道はこちらをご覧ください。

まとめ:「また同じ話」ではなく「この人の大切な記憶」として受け取る
6つの対応をまとめます。
- ① 毎回「初めて聞く顔」で答える
- ② 答えを「見える化」して繰り返しを減らす
- ③ 感情に寄り添う言葉で「不安の根っこ」に応える
- ④ 繰り返しを「会話の練習」と捉え直す
- ⑤ 繰り返しが激しい時間帯に別の活動を先手で入れる
- ⑥ 感情が限界になったらその場を離れることを自分に許可する
「さっき言ったでしょう」と言いたくなる気持ちは、正常な反応です。でも、その言葉が届かない相手に言い続けることは、あなたの心をすり減らすだけです。
対応を変えることで、あなたも本人も、少しだけ楽になれます。
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あなたのケアの一歩が、明日の安心につながりますように。








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