認知症「帰りたい」の対応策5選|施設・在宅どちらにも使えるNGワードとOK会話例
「施設に入った母が、毎日『家に帰りたい』とばかり言う」「在宅介護中なのに『家に帰る』と言い張る父をどう説得すればいいか」——認知症の「帰りたい」という訴えは、介護者にとって最も心が痛む場面の一つです。
私は回復期リハビリテーション病棟で7年以上働いてきた看護師です。「帰りたい」は病気がさせる言葉ではありません。本人にとって「ここにいる理由」がわからない状態からくる、正直な訴えです。
この記事では、帰りたい気持ちの本当の理由・見逃したくないサイン・NGワード・OK会話例・今日からできる5つの対応策を、施設・在宅どちらの場合にも使える形でお伝えします。
なぜ認知症の人は「帰りたい」と言うのか?本当の理由
「帰りたい」という言葉の背景には、様々な感情が複雑に絡み合っています。主な理由は以下の通りです。
- 場所の認識ができない:施設や自宅にいても「ここが自分の家だ」と認識できず、「家に帰らなければ」という感覚が生まれる
- 過去の役割の再現:「子どもにご飯を作らなければ」「子どもに危険が迫っている」など、現役時代の責任感が蘇ってくる(特に女性に多い)
- 不安・孤独感・寂しさ:見知らぬ場所で一人でいる恐怖を「家に帰ればなくなる」と感じている
- 環境への不適応:施設の集団生活など慣れない環境のストレスが「ここではないどこか」への欲求として出る
看護師のここだけの話:「帰りたい」と言われる立場になって考えてみてください。なぜここにいるのかわからない、なぜ自分の家に帰ってはいけないのかわからない状態で、見知らぬ人たちに「帰れません」と言われたら——戸惑い、なんとしてでも帰ろうとするのは、誰だって当然のことです。
「帰りたい」のサインを見逃さない:言葉以外の3つの変化
帰宅願望は、言葉だけでなく行動や表情にも現れます。以下のサインに気づいたら、早めの対応が有効です。
- 行動の変化:そわそわと歩き回る、ドアや窓に近づいて外を気にする、荷物をまとめるそぶりを見せる
- 表情の変化:以前より表情が暗い、元気がない
- 体調の変化:食欲低下、不眠
これらのサインに早く気づくことで、訴えが強くなる前に先手の対応が取れます。
「帰りたい」に使ってはいけないNGワード3つ
まず、やってしまいがちだけれど逆効果になる対応を知っておきましょう。
- NGワード①「ここがお家ですよ」:本人の認識を否定する言葉は混乱と不安を増幅させます
- NGワード②「さっきも帰れないって言いましたよね」:記憶がない方への指摘は傷つけるだけです
- NGワード③「帰れません」と断言する:理由なく拒絶されると恐怖心と怒りが増し、一人歩きにつながることがあります
これらを言ってしまった経験がある方も、責める必要はありません。知らなかっただけです。今日から変えていきましょう。
対応策①:「帰りたい気持ち」をまず受け止める
最初にすることは、帰りたいという気持ちを否定せず受け止めることです。
OK会話例:
- ×「ここがお家ですよ」→ ○「帰りたいんですね、そうですよね」
- ×「帰れません」→ ○「そうか、家が恋しいですね。どんなお家でしたか?」
「帰りたい」という感情を受け取ってもらえたと感じると、本人の不安が和らぎ、訴えの頻度が下がることがあります。感情に応えることが、言葉の内容への対応より先です。
対応策②:「ここにいる理由」を本人が納得できる形で伝える
「帰れない」と伝えるのではなく、「ここにいる理由」を本人が受け入れやすい言葉で伝えることが有効です。私自身、都度都度、本人にとっての「ここにいる理由」を見つけていくことが最善だと考えています。
OK会話例:
- 「お体の具合がよくなるまで、ここでゆっくりしましょうね」
- 「今日は遅いから、明日の朝に一緒に帰りましょう」(翌朝にはまた同じ会話になっても、その場が落ち着けば十分です)
- 「〇〇さん(スタッフの名前)も心配していたから、もう少しいてあげましょう」
内容の正確さより、「この場所にいることへの納得感」を与えることが目的です。
対応策③:過去の思い出・好きなものへ気持ちをそらす
「帰りたい」という気持ちが高まっているとき、過去の記憶や好きなものへの話題転換が有効です。
- 昔の家や故郷の思い出を一緒に話す・写真を見る
- 好きな音楽をかける
- 好きなお菓子や飲み物を出す
- 散歩に誘って気分転換をする
感情の記憶は認知症になっても比較的保たれやすいため、なじみのものへの反応は良好なことが多いです。「説得」より「共感と気分転換」の方が、帰宅願望への対応としてはるかに効果的です。
対応策④:施設・在宅どちらでも「なじみの品」を置く
本人が「ここが自分の場所だ」と感じるための環境づくりも重要です。
- 愛用していたクッション・湯呑み・時計・カレンダーを置く
- 家族の写真を飾る
- 若い頃から使っていた毛布やタオルを持ち込む
看護師のここだけの話:時計やカレンダーは「今がいつか」を認識する手助けになり、帰宅願望の引き金となる「時間の混乱」を和らげる効果があります。「ここに自分のものがある」という感覚が、場所への安心感につながります。
対応策⑤:施設職員(または家族間)と「帰りたいパターン」を共有する
帰りたいという訴えが多い時間帯・状況・前後の出来事を記録し、施設職員や同居していない家族と共有することで、先手の対応が可能になります。
- 「夕方4時頃に多い」→ その時間帯に先手でお茶や活動を入れてもらう
- 「食後に多い」→ 食後に好きな音楽をかける対応を依頼する
- 「面会後に多い」→ 面会の終わり方を工夫する(急に帰らず、スタッフに引き継ぐ)
施設にとって、本人のことを一番知っているキーパーソンからの情報は何よりの財産です。「うちの場合はこういうパターンがあります」という一言が、ケアの質を大きく変えます。
「帰りたい」が一人歩きにつながることも
帰宅願望が強くなると、実際に外に出ようとする「一人歩き(徘徊)」につながることがあります。一人歩きへの具体的な対策はこちらをご覧ください。

施設からの連絡が多くて疲弊しているなら
「帰りたい」の訴えが続くと、施設から頻繁に連絡が来ることがあります。その対応に疲れているキーパーソンへの記事はこちらです。

まとめ:「帰りたい」への5つの対応策
5つの対応策をまとめます。
- ① 「帰りたい気持ち」をまず受け止める
- ② 「ここにいる理由」を本人が納得できる形で伝える
- ③ 過去の思い出・好きなものへ気持ちをそらす
- ④ なじみの品を置いて「ここが自分の場所」と感じてもらう
- ⑤ 施設職員(または家族間)と「帰りたいパターン」を共有する
「帰りたい」と言われるたびに心が痛む気持ちは、それだけ真剣に向き合っている証拠です。
「帰りたい」という言葉の奥にある「不安」と「寂しさ」に応えることが、最善の対応です。あなたが来てくれるだけで、本人の「帰りたい」は少しだけ和らいでいます。
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あなたのケアの一歩が、明日の安心につながりますように。







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