「入院したのに、どうしてまだ動けないんだろう?」
ご家族のそんな声を、回復期病棟の現場で何度も耳にしてきました。圧迫骨折で入院したからといって、必ずしも安心できるわけではありません。**「入院=回復」ではなく、「入院=回復への準備期間」**と捉える視点が必要です。
この記事では、圧迫骨折で入院後に「動けない」と感じる主な理由と、その対策を5つの視点から解説します。看護師としての経験に基づいたリアルな気づきをもとに、家族として「何ができるか」を一緒に考えていきましょう。
動けない理由1:安静による筋力低下
入院直後は安静が指示されることが多く、その間に筋肉が著しく低下することがあります。とくに高齢者では、3日間寝たきりになると下肢筋力が約10〜20%低下するといわれています(※参考:日本リハビリテーション医学会「高齢者の運動療法」)。
これを予防するには、早期離床とリハビリ開始のタイミングを逃さないことが大切です。
私の経験では、リハビリを1日でも遅らせることで、その後の回復に数週間の差が出ることもありました。たとえば、リハビリの介入が早かった方は、退院後も自宅での生活にスムーズに移行できる傾向があります。
家族ができること:
- 担当看護師やリハビリスタッフに「今日はどこまで動いてもいいですか?」と声をかける
- ベッド周囲の環境を整えて、動きやすい状態をつくる
動けない理由2:痛みや再骨折への不安
動かない理由として、「また折れるのでは」「痛いからこわい」といった心理的要因も大きく影響します。
高齢者では痛みに対する耐性が低く、痛み=動けないという学習が成立してしまうと、リハビリの意欲自体が失われます。
このとき必要なのは、「少しずつできることを増やしていく」という安心感です。
「今日は5分だけ座ってみよう」「腕を動かすだけでもOK」といった小さな成功体験を積み重ねることで、本人の自信につながります。
家族ができること:
- 「大丈夫、無理しなくていいよ」と声をかけて安心感を与える
- 動けたときには「すごいね」「頑張ったね」と肯定的なフィードバックを忘れない
動けない理由3:入院環境による生活力の低下
病院は「治療の場」であり、「生活の場」ではありません。そのため、食事・排泄・整容など、あらゆることを“してもらう”環境が整っています。
しかし、この便利さが裏目に出てしまい、ADL(日常生活動作)の自立度が低下してしまうことがあるのです。
たとえば、入院前は自分でトイレに行けていたのに、入院中はポータブルトイレやオムツになり、そのまま退院後も依存状態になるケースもあります。
家族ができること:
- トイレに行ける環境があるか、病院スタッフに確認する
- 可能であれば、食事や洗面など“自分でできること”は支援しすぎない
動けない理由4:せん妄や認知機能の変化
「夜中にうろうろしていた」「誰かが来るって言って聞かない」——入院後、突然こうした症状が出てきたら、**せん妄(急性の混乱状態)を疑います。
せん妄の発生率は高齢者の入院患者で15〜30%**とされており(※文献:日本老年医学会)、特に環境の変化や夜間の不眠が原因となります。
認知症との違いを見極めるのは難しいですが、せん妄は一過性で回復が見込める状態です。
家族ができること:
- 日中に会話や軽い運動を促す
- 時計やカレンダーを病室に置いて“今”を意識しやすくする
- 無理に否定せず、「そうなんだね」と共感的に受け止める
動けない理由5:退院後の生活が見えない不安
「また動けなくなったらどうしよう」「介護が必要になったら?」と、退院後の生活に対する不安は患者本人にも、ご家族にもつきものです。
その不安が“今動く意味”を見失わせてしまうのです。
このとき必要なのは、具体的な生活設計と相談窓口の把握です。たとえば、地域包括支援センターやケアマネジャーとの面談を通じて、退院後のサポート体制を早めに整えておくことが安心感につながります。
家族ができること:
- 地域包括支援センターに連絡して、今後の方針を相談する
- 担当医やリハビリスタッフと、退院後の計画について共有する
まとめ|「入院しても安心できない」と感じたら
チェックすべき5つの視点:
✅ 筋力低下を防ぐための早期リハビリの実施
✅ 痛みや再骨折への不安を減らすコミュニケーション
✅ 生活力を守る“あえて手を出さない”支援
✅ せん妄や認知機能の変化を見逃さない工夫
✅ 退院後の不安に備えた地域資源との連携
入院しても回復が進まないと感じたら、それは「誰かが悪い」のではなく、見えていなかった背景があるのかもしれません。
大切なのは、「今できることは何か?」を一緒に見つけていくこと。焦らず、少しずつ前に進めるよう、この記事がその一助になれば幸いです。
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