その一歩が、家族を救う
「退院しても安心できない」——これは、あるご家族のリアルな声でした。
圧迫骨折で入院していた90代の女性が、回復して自宅へ戻った直後のこと。見守るご家族が気づいたのは、リハビリの継続が難しくなり、動かない時間が増え、少しずつ表情も乏しくなっていったことでした。
「在宅でできること、もっと知っておけば…」
この記事では、そんな後悔をしないために、退院後の在宅介護でフレイル(心身の虚弱)を予防するための具体的な方法を、医療現場の視点から丁寧にご紹介します。
介護するご家族自身が無理なく続けられる実践例を中心にお伝えします。
在宅介護を選択する前に知っておきたい準備
環境を整える:まずは動線の見直しから
生活空間のちょっとした段差や滑りやすい床が、フレイルの原因になります。
病院と違って自宅は日常そのもの。だからこそ、ベッドからトイレ、食卓への動線にこだわることが大切です。
例えば:
- ベッドの高さを調整し、立ち上がりをスムーズに
- 廊下に手すりを設置し、移動の不安を軽減
- 脱衣所やトイレなど滑りやすい場所に滑り止めマットを敷く
「安全=自立支援」につながる。そんな環境づくりから始めてみましょう。
介護体制の構築:一人で抱えない仕組みを
家族だけで抱え込もうとすると、無理が生じやすくなります。
介護保険サービスや訪問リハビリの利用も視野に入れ、「支援チーム」としての体制を意識してみてください。
できること:
- 担当ケアマネジャーに「リハビリ継続」を相談
- 訪問看護ステーションや地域包括支援センターと連携
- デイサービスでの運動や交流機会を確保
「自分たちで頑張る」から、「支えてもらいながら支える」へ。切り替えが大切です。
緊急時の対応策:いざという時の準備
圧迫骨折の既往がある方は、再骨折のリスクも高まります。
緊急時の体制づくりは、在宅生活の安心材料になります。
おすすめの備え:
- 介護ベッド横に連絡カード(かかりつけ医、訪問看護、救急連絡先など)を設置
- 緊急通報装置(福祉用貸与あり)を検討
- ご家族の中で「連絡と行動」の役割分担を決めておく
事前に備えることで、不安を少しでも軽くできます。
制度を知る:介護保険を味方につける
在宅介護を支える制度として、介護保険は欠かせません。
「必要なサービスは、自己負担も軽く利用できる」ことを知っておくと、心強いです。
ポイント:
- ケアマネジャーがケアプラン作成を支援(無料)
- 福祉用具(手すり・歩行器・ポータブルトイレ等)の貸与制度
- 通所リハや訪問リハビリは要支援・要介護者どちらも利用可能
相談先が分からない場合は、地域包括支援センターに連絡を。
フレイル予防を日常に組み込む方法
運動:ながら体操でも大きな成果に
「大げさなリハビリ」は不要です。
座ってできる体操や、家事の動きを利用した筋トレなど、生活に溶け込む運動が有効です。
実例:
- 朝の着替え時に「つま先立ち10回」
- 食卓での座位姿勢で「かかと上げ体操」
- 家の中で10分だけラジオ体操を一緒に行う
継続が何より大切です。やる気が出ない時は、まずは「一緒にやってみる」ことから。
栄養:食べられることを最優先に
フレイル予防にはたんぱく質とカロリーが重要ですが、「食べない」日が続くと悪循環に。
食事内容より、「食べられる楽しさ」を最優先にしてください。
具体策:
- 好きな味付け・見た目にこだわる
- 少量でもエネルギーの高い食品(プリン、ヨーグルト、豆腐など)
- 食欲のある時間帯を見極めて、その時間に合わせて食事を調整
無理強いせず、寄り添う姿勢が結果的に摂取量アップにつながります。
社会参加:孤独を防ぐ小さな工夫
人との関わりが減ることも、フレイルの原因です。
家族の声かけや、地域活動への参加は予防効果が高いとされています。
工夫例:
- 家族で「今日の話題」や「思い出の写真」を共有
- ご近所や訪問ヘルパーさんとの会話機会を大切にする
- 短時間でもデイサービスへの参加を検討
外出が難しくても、「対話」が心の筋力になります。
口腔ケア:忘れがちなフレイル予防の鍵
しっかり噛む、話す、飲み込む力が落ちると、栄養も会話も減ってしまいます。
毎日の口腔ケアは、思った以上に重要です。
ポイント:
- 1日2回の歯磨きに加え、舌や頬のマッサージを
- 食後に「うがい」だけでも続ける
- 入れ歯の管理を家族も一緒にチェック
お口の元気は、全身の元気に直結します。
まとめ:家族ができることは、思っているより多い
チェックリスト:家族ができるフレイル予防5つの行動
☑ 自宅の環境を見直して、安心して動ける空間をつくる
☑ 介護サービスや制度を活用して、一人で抱え込まない
☑ 毎日の中に自然と運動を取り入れる
☑ 食事の楽しみを優先して、食べられる工夫をする
☑ 会話や口腔ケアを大切にして、孤独と体力低下を防ぐ
在宅介護には不安もありますが、「家だからこそできること」もたくさんあります。
完璧でなくて大丈夫です。
「今日からできる小さな工夫」を、ご自身のペースで始めてみてください。