「これって私だけでしょうか? 介護していると、自分の感情が分からなくなってくるんです」
そう語ったのは、回復期病棟に入院したご高齢の母を支えていた50代の娘さんでした。
日々の介助、限られた睡眠、家族や職場への気遣い──。目の前のことに追われるうちに、気づけば笑えなくなっていたという言葉が印象的でした。
この記事では、私たち看護師が現場で何度も目にしてきた「介護する人の心の負担」に焦点をあてます。「つらい」と感じることは、誰にでもある自然な感情です。
そして、その気持ちに向き合いながら、少しだけ気持ちが楽になる“視点の変え方”をご提案します。
なぜ介護は「しんどく」感じるのか?
日常の延長ではない、心身の負担
介護は、想像以上に“非日常”の連続です。
生活リズムが崩れ、自分の時間が削られていく。
とくに骨折後の在宅介護など、動けない家族を支える日々は、「休む暇がない」という言葉がぴったりです。
日本老年医学会の報告では、介護者の約6割が精神的ストレスを感じているというデータもあります(※1)。
それだけに、「自分だけがつらい」と思わないことが大切です。
役割の重圧と孤独感
「私がやらなければ」
そう思って頑張る人ほど、責任を背負い込みすぎる傾向があります。
相談する相手がいない、介護の愚痴を言いづらい──
その孤独感が、さらに心の負担を重くするのです。
現場では、「家族に申し訳なくて助けてほしいと言えなかった」と泣き崩れるキーパーソンも少なくありません。
看護師が現場で見つけた5つの“希望の視点”
視点①:100点を目指さない
介護に“完璧”はありません。
日によって体調も気分も違う中で、毎回同じ対応が通用するわけではないからです。
大切なのは、「がんばりすぎないこと」。
60点でもいい、自分に優しくあることが、継続の鍵になります。
視点②:「つらい」と声に出す勇気
苦しい気持ちをため込まず、誰かに話すこと。
それだけで、心の重さが少し軽くなることがあります。
地域包括支援センターや訪問看護の相談窓口など、公的な相談先を早めに知っておくことも、心を守るひとつの方法です。
視点③:小さな変化に目を向ける
食事の量がほんの少し増えた。自分で靴を履こうとした。
そうした“微差”の積み重ねこそ、回復への大事な一歩です。
できなかったことより、できたことに目を向ける意識は、介護者の気持ちの安定にもつながります。
視点④:専門家に頼ってもいい
介護保険を使った訪問介護、通所リハビリ、短期入所(ショートステイ)など、外部の力を借りることは決して甘えではありません。
むしろ、適切な支援を受けることは、介護の質を保つうえで非常に重要な選択です。
視点⑤:自分の生活を大切にする
趣味や仕事、人との関わりを「自分のために残す」ことは、長く介護を続けていくうえでの大事な支えになります。
看護師として、そして一人の生活者として、
「自分の人生を守る」という選択を、どうか忘れないでいてください。
キーパーソン自身の“セルフケア”のすすめ
気づきと予防が第一歩
介護疲れは、気づかぬうちに心身をむしばみます。
以下のような変化に気づいたら、自分の“限界”が近づいているサインかもしれません。
- 睡眠が浅い、食欲がない
- 無気力になる
- 怒りっぽくなる
- 人に会いたくない
こうした変化を感じたら、早めに誰かに話すことが必要です。
相談できる窓口を探す
家族以外にも、信頼できる相談先があることで、心のゆとりが生まれます。
- 地域包括支援センター
- ケアマネジャー
- 訪問看護師
- 市区町村の介護相談窓口
「ひとりじゃない」と感じられるだけで、気持ちは大きく変わります。
まとめ:介護と向き合うあなたに伝えたいこと
介護は、愛情と忍耐だけで乗り切れるものではありません。
だからこそ、支える側が壊れないようにすることが第一です。
本記事のポイント(チェックリスト)
- 自分に「完璧」を求めすぎない
- つらい気持ちを声に出す
- 小さな変化に目を向ける
- 専門家の力を借りる
- 自分の人生を大切にする
すべてを一度に実行する必要はありません。
どれかひとつ、「明日からやってみよう」と思えることを見つけてもらえたら、それだけで十分です。