その治療、やめたらどうなるか知っていますか?

著者について
  • 看護師7年目
  • 山間地域の退院支援に従事
  • 認知症サポーター研修受講済み
  • 祖母の介護を5年経験
汐です。

「点滴、もうつらいって言ってるんです。でも、治療をやめるって、いいんでしょうか?」

ある50代の娘さんが、病室の隅で私にそっと声をかけてきました。
そのとき患者さんは、数週間にわたり治療を受けている高齢者の方。薬の影響で食欲は低下し、表情も硬く、会話も減っていました。

治療を続けることが“本人のため”だと信じている一方で、その選択に迷い始めている――そんなご家族の姿を、私は現場で幾度となく目にしてきました。

この記事では、「治療を続けるか、それともやめるか」に悩むご家族へ向けて、
●やめたときに何が起こるのか
●判断に必要な視点や準備
●現場で感じたリアルな変化
をお伝えします。

選ぶことは、迷うことです。
でも、迷いを重ねた末にたどり着いた選択なら、きっと後悔は減らせるはずです。


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治療をやめるとき、いちばん悩むこと

「もし治療をやめたら、何が起きるのか」
ご家族が一番に心配するのは、まさにそこだと思います。

特に高齢になると、病気だけでなく加齢に伴う変化が複雑に重なり合います。
たとえば、代謝が落ちることで薬が効きすぎてしまったり、免疫力が下がって治りにくくなったりするケースもあります(日本老年医学会ガイドライン2023より)。

治療がつらくなる背景には、こうした身体の変化がありますが、医療側は“治療ありき”で話が進みやすいのも事実です。

そして、家族側は「やめたい」と思いながらも、

  • 医師に失礼じゃないか
  • 自分が見捨てるようで怖い
  • 他に手立てがあるのではないか
    といった葛藤を抱えます。

これは珍しいことではありません。
むしろ、家族として自然な感情だと私は思います。

だからこそ、いまの迷いを否定せず、「なぜ迷っているのか?」を丁寧に見つめ直す時間を取ることが、納得への第一歩になります。


治療をやめたあと、見えてくること

ある方のケースを紹介します。
90代の男性。数週間の抗菌薬点滴で倦怠感が続き、食事はほぼ摂れず、言葉数も減っていました。
状態は安定していたものの、ご家族の希望もあり、治療は一段落とする方針になりました。

それから数日後、彼は少しずつ表情を取り戻し、声に力が戻ってきました。
ある日は好物だった果物を口にし、「うまいな」と笑ったのが印象的でした。

治療をやめたからといって、急激に悪化するとは限りません。
むしろ“治療による負担”が軽くなることで、生活の質が上がることもあります。

もちろん、すべての方が同じように回復するわけではありません。
でも、「この人にとって何が大切なのか?」という視点で見直したとき、やめることが前向きな選択になるケースは、現場では珍しくありません。


「治す」だけじゃない選択肢

医療の目的は、ただ病気を治すことだけではありません。
とくに高齢者医療では、回復の限界をふまえたうえで「どう生きたいか」を軸に考えることが求められます。

具体的には、以下のような選択肢が現場ではよく話し合われています。

  • 治療を縮小し、苦痛を和らげるケアに切り替える
  • 点滴や薬を減らし、食べたい物を少しでも楽しめる時間を優先する
  • 家族がそばにいられる場所へ退院する準備を進める

こうした判断を行うには、
①本人の希望
②今の身体状態
③医療的な限界
を丁寧に照らし合わせる必要があります。

私は現場で、「無理に続けるより、本人の穏やかさを守るほうが支えになる」と実感することが何度もありました。

「治療を続ける」のも、「やめる」のも、そのどちらも正解。
大切なのは、家族と本人が「納得できるかどうか」です。


まとめ:治療をやめる選択を考えるときのポイント

治療をやめるかどうかを考えるとき、迷いはつきものです。
それでも、“やめる”という選択肢があることを知っているだけで、心は少し軽くなります。

以下のポイントを参考にして、ひとつずつ整理してみてください。


✅ 判断のためのチェックリスト

  • ご本人は「何を大切にしたい」と感じているか、直接話せていますか?
  • いま受けている治療の“目的”を、医師と共有できていますか?
  • 治療をやめたあとの生活や支援体制について、具体的に相談できる場所はありますか?
  • 医療の情報だけでなく、“生活の視点”も交えたうえで検討できていますか?
  • 家族の「こうしたい」「こうしてあげたい」が、本人の希望とズレていないか確認しましたか?

あなたの選択に正解はありません。
でも、誰かと話しながら一緒に考えることで、納得に近づくことはできます。

この記事が、その一歩になればうれしいです。
あなたの思いや迷いがあれば、ぜひコメントで聞かせてください。
同じように悩む誰かの力になるかもしれません。

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