「いつもより反応が鈍い」「目が合っても笑ってくれない」
体調は安定しているのに、なぜか気持ちが届かない——そんな違和感を覚えたことはありませんか?
私はある日、食事中の利用者さんの手が止まった理由が、”味が薄い”のではなく、“香りが感じられない”ことだったと気づきました。言葉より先に感情が動く高齢者の世界では、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のすべてが大切なコミュニケーション手段になります。
この記事では、回復期病棟での経験をもとに、「五感を使ったケア」で笑顔が戻った7つのエピソードをお届けします。介護者の方に、明日すぐにでも使える“感覚でつながるヒント”をお渡しできれば嬉しいです。
五感がつなぐ“わかりあえる”ケアの力
感覚を通じて伝わる「安心」のしくみ
五感の刺激は、ことばの壁を越えて“安心”を届けるツールです。
とくに高齢者は、過去の記憶や感情が感覚と結びついていることが多く、「懐かしい音」「やさしい匂い」「やわらかい感触」が心をほぐす力になります。
香りや音が呼び起こす“記憶の扉”
ある男性利用者は、昼食に味噌汁を出したときだけ「おふくろの味だ」とつぶやきました。それまで無表情だった彼の声に、スタッフ全員が驚いた瞬間でした。五感の刺激は、記憶とともに「自分らしさ」を呼び戻します。
「感じる力」は年齢を重ねても残る
加齢に伴い、感覚が鈍くなる印象がありますが、実際は「繊細に残る」部分もあります。たとえば皮膚感覚は部位によって異なり、手のひらは敏感さを保っているケースが多いです。
触れた手が「安心」を届けた場面
不安で落ち着かない方に、何も言わずそっと手を添えると、徐々に呼吸が整っていきました。「大丈夫だよ」という言葉よりも、“触れた安心感”が何よりのメッセージになっていたのだと思います。
実践:五感を活かす7つのケアの工夫
視覚:飾ることで会話が生まれる
季節の飾りや懐かしい風景のポスターなど、目に見えるものが「気持ちの変化」を生むことがあります。視覚は五感の中でも最も情報量が多く、心理的な影響が大きい感覚です。
写真1枚で変わった表情
ベッドサイドに孫の写真を置いたら、見るたびに「この子ね、頭がよくてね」と話が弾むようになった方がいます。視覚の工夫は、自己表現のスイッチになります。
聴覚:静かすぎる環境が不安を生むことも
音楽や話し声は、空間の“温度”を決めます。特に認知機能が低下している方には、なじみのある音が安心感をもたらします。
昭和歌謡に誘われて
何日も会話がなかった女性利用者に「上を向いて歩こう」を流したところ、小さな鼻歌が返ってきました。音楽は記憶と感情をつなぐ“心の鍵”になるのです。
嗅覚:香りで空気が変わる
アロマや食事の香りなど、嗅覚への刺激はリラックスや食欲の促進にも効果的です。無意識に反応しやすい感覚だからこそ、介護ケアに取り入れやすい工夫のひとつです。
湯気の香りでスイッチが入った
温かいお茶の湯気に鼻を近づけただけで、「飲みたい」と言ってくれた利用者さん。香りが「飲む」という行動を引き出すこともあるのです。
味覚:食べる意欲を引き出す鍵
好きな味、知っている味は、“食べたい”という気持ちにつながります。味覚は「食べる楽しみ」を思い出すきっかけになります。
小さな“好き”を見逃さない
甘いものが好きだった方に、小さな一口の羊羹を提供したところ、驚くほどスムーズに口が開きました。小さな好みが「食べる意欲」の出発点です。
触覚:ぬくもりが生む“ことばのない会話”
手をさする、肩を軽くたたく、布団をかけ直す——それだけでも「大事にされている」と感じられるのが触覚の力です。
背中をなでるケアが好反応に
夜間に不安で眠れない方の背中をゆっくりなでると、少しずつまぶたが落ちていきました。触れることで「安心」のスイッチが入る瞬間です。
まとめ:ことばにならない「つながり」を感じるために
今すぐできる五感ケアのチェックリスト
- 季節感のある飾りを取り入れている
- 好きな音楽を流す機会をつくっている
- 食事前に香りを感じてもらっている
- 好みの味を覚えている
- 手を握る・背中に触れるなどのケアをしている
心と心をつなぐのは、ことばだけではありません。
「なんだか元気がないな」と思ったとき、五感で届ける“安心”を試してみてください。
気づきがあれば、ぜひSNSでシェアをお願いします。
あなたの実践が、また別の誰かのヒントになります