「父が外に出たがっているんです。なのに、どの機器が合うのか、私たちにはさっぱりで…」
これは、私が退院支援のカンファレンスで聞いたご家族の声です。
在宅酸素療法(HOT)は、機械さえあれば始められるわけではありません。
**「その人がどんなふうに暮らしたいのか」**が、機器選びに深く関わってきます。
この記事では、酸素濃縮器・液化酸素・酸素ボンベの特徴を、看護師としての視点から整理し、
「違いがわからない」「選び方が不安」という声にお応えします。
外出を叶えたい方、日常を少しでも快適にしたいご家族のために、後悔しない選択を後押しできればと思います。
在宅酸素機器の選択に迷う理由
「どれも同じように見えて、選びようがない」
そう感じる方はとても多いです。
医師から「ご自宅でも酸素が必要です」と言われた瞬間から、機器選びのプレッシャーが始まります。
でも実際には、「わからない」と感じるのは、あなたが情報に弱いからではなく、
説明が“生活の目線”になっていないからです。
ここでは、ご家族が迷いやすい3つの視点を、現場の声とともに整理します。
医療用語がわかりづらい
「酸素濃縮器」「液化酸素」「高流量」——
どれも聞き慣れない言葉ばかりで、説明を受けてもピンとこない。
それは当然です。
たとえば酸素濃縮器は、「電気で動く酸素の蛇口」のようなもの。
液化酸素は「静かで持ち運びやすいけれど、補充が必要な燃料タンク」と考えると分かりやすくなります。
私は説明の際、「例えると何か」で一緒に考えるようにしています。
言葉が腑に落ちれば、機器のイメージも自然と描けてくるものです。
生活の中での使い方が想像しづらい
カタログで見ても、「実際どうやって使うの?」という疑問が残る方は多いです。
家の中をどれくらい移動するのか、
日中はどこで過ごしているのか、
電源やコンセントの位置はどうか——
こうした「日常の動き」にあてはめて考えると、選ぶべき機器の輪郭が見えてきます。
ある患者さんのご家族は、「庭いじりが日課」という希望を聞いて、携帯型酸素の併用を決断されました。
機器を暮らしに合わせる視点こそが、選び方の出発点です。
「間違えたらどうしよう」という不安
機器の選択において、最も多いのはこの気持ちです。
「選び間違えたら取り返しがつかないのでは」という不安が、判断を鈍らせます。
でも大丈夫です。
酸素機器は後から見直すこともできますし、複数を組み合わせることで調整も可能です。
「完璧な選択」ではなく、「今の暮らしに合った選択」を意識すれば、自然と迷いは減っていきます。
3種類の機器の特徴と選び方
ここでは、3つの在宅酸素機器について、仕組み・向き不向き・生活での使い方という視点でわかりやすく紹介します。
酸素濃縮器:電気で動く“据え置き型”
電源さえ確保できれば、酸素がずっと供給される安心感があります。
長時間使用したい方や、寝ている間も使用する必要がある方におすすめです。
【向いている人】
- 家で過ごす時間が長い
- 移動はあまり多くない
- 毎回の補充が面倒に感じる
【注意点】
- 停電時は使えないため、バックアップの酸素ボンベが必須です
- 電気代が気になる方は、補助制度の活用も視野に
液化酸素:静かで外出向き、だけどコスト高め
液体を気体に変えて使う仕組みで、高流量が必要な方や、静音性を重視したい方に向いています。
携帯用ユニットへの充填が可能で、「出かけたい」を叶えやすいのが特長です。
【向いている人】
- 外に出る機会を大切にしたい
- 息苦しさが強く、高い流量が必要
- 音に敏感な方
【注意点】
- 毎回の補充が必要で、費用もかかります
- 配送スケジュールを確認しておく必要があります
酸素ボンベ:持ち運び重視の“非常用”
圧縮酸素を充填したシンプルな構造で、**携帯性に優れた“補助役”**として使われます。
短時間の外出や、万一の停電時などに重宝します。
【向いている人】
- 週に数回、近所に出かける程度
- 災害時や病院受診に備えたい
- 操作がシンプルなものを希望
【注意点】
- 中身がなくなると使えないので、残量の確認が必要です
- 長時間の使用には不向きです
機器を選ぶときに考えてほしいこと
ここまで読んで「結局どれがいいの?」と思われた方も多いでしょう。
正解はありません。
でも、“納得できる選び方”はあります。
生活スタイルを軸に考える
「どこで過ごすことが多いか」「外出の頻度」「誰が管理するか」——
これらを整理することで、選択の軸が見えてきます。
自分たちだけで決めない
医師、看護師、ケアマネージャー、業者のサポートを上手に使ってください。
不安なまま契約する必要はありません。
「試してから決める」という選択肢もあることを忘れずに。
まとめ:機器選びは「暮らし方選び」
酸素機器の選択は、ただの医療機器の比較ではありません。
その人がどう生きたいか、何を大切にしたいかを言葉にするチャンスです。
✅ 選ぶ前に確認したいことチェックリスト
- お家での移動や過ごし方を把握しているか
- 外出の希望や頻度を共有できているか
- 管理者(家族・本人)の意向はどうか
- 補助制度や費用面の確認は済んでいるか
- 医療者に相談できる体制があるか
🌿「わからない」と思ったときこそ、暮らしを見直すタイミングです。
あなたの選択が、誰かの一歩につながることを願っています。