はじめに|「食べているのに低栄養?」そんな疑問から始まった
「ちゃんと食べているのに、どうしてアルブミンが上がらないんでしょうか?」
ある日、90代の患者さんの娘さんが、検査結果を見ながら私に尋ねてきました。
ごはんもおかずも残さず食べている。それなのに「低栄養」や「褥瘡リスク」と言われ、戸惑う気持ちはよくわかります。
この記事では、高齢者のアルブミンが上がらない背景と、実際に改善に役立った食事の工夫6つを、現場のエピソードを交えながら紹介します。
- 栄養は取れているはずなのに、なぜ?
- どこを見直せば改善につながるのか?
そんな疑問を持つ方へ、少しでも安心につながる情報をお届けできれば幸いです。
栄養が足りていない?その理由
「量は食べているのに、なぜ低栄養?」という疑問はもっともです。
しかし高齢者の場合、筋肉量の減少や胃腸機能の低下により、必要な栄養素が十分に吸収されないことがあります。また、多くの薬を服用している方では、食欲や消化の働きがさらに低下していることもあります。
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』によれば、高齢者でも体重1kgあたり1.0g程度のたんぱく質が必要とされています。
見た目には「しっかり食べている」ようでも、実際にはたんぱく質やエネルギーが足りていない場合があるのです。
野菜中心がかえって負担に?
ある患者さんのご家族は、体に良いと思って、煮物や野菜たっぷりの食事を用意していました。
ところが検査ではアルブミンが2.7g/dLと低下しており、「これ以上下がると褥瘡のリスクが高くなる」と医師から説明を受けました。
栄養バランスを重視するあまり、低カロリー・低たんぱくな食事になっていたのです。
たんぱく質や脂質は「控える」よりも「意識的に補う」ことが必要です。ご飯だけでなく、卵や豆腐、チーズ、ツナ缶など、エネルギーとたんぱく質を多く含む食材を少量でも取り入れることが改善の第一歩です。
食欲がないときの工夫
加齢により、食欲が減るのは自然なことです。唾液の分泌量や胃の動きの低下、味覚や嗅覚の変化も影響しています。
ある患者さんは、朝はほとんど食べませんでしたが、午後になるとアイスやプリンは食べられるというパターンでした。
「一日3食をきちんと食べる」ことが難しい場合は、一回の量を少なくして回数を増やすことが有効です。
- 10時と15時に栄養ゼリーを取り入れる
- 夕食後にヨーグルトで“追加エネルギー”
このように、本人のリズムに合わせて少しずつ栄養を足す工夫が必要です。
甘い物にも意味がある
「お菓子ばかり食べて、困るんです」と相談されることは多いです。
ですが、体重が減っている、アルブミンが低いという状況では、少しでも食べられるものを優先する考え方も重要です。
たとえばプリンやアイスクリームは、エネルギーもあり、口当たりが良いため食が進みやすい食品です。
栄養補助として取り入れる際は、甘味とたんぱく質が同時に取れるもの(高たんぱくプリンやミルクセーキ風飲料など)を選ぶとより効果的です。
補助食品は選択肢のひとつ
「できれば自然な食事で」と考えるのは当然ですが、現実にはそれが難しいこともあります。
そんなときは、栄養補助食品を活用することをおすすめします。
たとえば、1本で200〜400kcal、たんぱく質10g以上含まれるものも市販されています。医師や管理栄養士に相談しながら、適切な製品を取り入れることが大切です。
ある患者さんは、昼食後に栄養補助飲料を飲むようにしたことで、1ヶ月でアルブミンが0.3g/dL上がりました。
「食べられない=補う」ための手段として、無理なく続けられる方法を選びましょう。
食事は“楽しみ”になる
食事は、栄養補給の手段であると同時に、生活の中の楽しみにもなります。
ある患者さんは、家族と話しながら食べる時間を「1日の楽しみ」と話していました。
食事を「作業」にしないためには、
- 孫と一緒に食べる
- 懐かしい料理の話をする
- 好きな音楽をかける などの工夫が有効です。
「おいしいね」と言える時間が、自然と“もう一口”へとつながります。
まとめ|アルブミン改善の6つの工夫
高齢者のアルブミン値を上げるには、「ただ食べる量を増やせばいい」という単純な話ではありません。
本人の食欲、好み、身体の変化に合わせて、現実的で続けやすい工夫が必要です。
以下に、実際に改善に役立ったポイントをまとめました:
✅ 栄養は見た目ではなく“中身”で判断する
✅ 低カロリー食に偏りすぎないよう意識する
✅ 食べられるタイミングを探す・分けて摂る
✅ 甘い物も“補助的な栄養”と捉えてみる
✅ 補助食品は「選択肢の一つ」として取り入れる
✅ 食事を楽しく、誰かと共有する時間にする
アルブミン値は、身体の状態を映すサインです。 不安に感じる方も多いと思いますが、できることを少しずつ試していくことで、改善のきっかけはきっと見つかります。
あなたのご家族が、“また食べてみようかな”と思える時間が増えていきますように。
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